ゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管弦楽団演奏会(熊本)

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 ゲルギエフの2009年日本公演が始まりました。ここ熊本にはたぶんこれまで3度来ています。こんな九州の一田舎都市に、世界的に有名な指揮者と楽団が来てくれることは嬉しいのですが、なんで熊本に?とも思います。
 (※その後の調査で知ったのは、ゲルギエフや他の優れた音楽を支援している熊本出身のチェスキーナ洋子さんというベネチアの富豪夫人がいらっしゃって、その方の援助で今回の演奏ができているし、全国でも熊本だけの特別プログラムを聞くことができる、らしい。感謝です。他所はもっと値段が高く、熊本だけ安い。また有名どころの曲ばかり並びかなり濃厚な内容です)。
 また、「ホールそのものが楽器である」と言われ、その音響は世界で最高の評価を受ける熊本県立劇場コンサートホールが、ゲルギエフのお気に入りのひとつでもあるらしいというのは聞いた話。実際ビニール袋が擦れる音さえ耳障りな大きな音として聞こえます(演奏中、ガサガサ触るのはやめようね、おばちゃん!)。日本公演はここ熊本を皮切りに12公演あるようです。



 今回のプログラム
●チャイコフスキー 序曲「1812年」
●ムソルグスキー(ラヴェル編曲) 組曲「展覧会の絵」
●チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」

 有名なオケがほとんど来ない土地柄、専ら聴くのはCDのみ。そのCDさえも最近は忙しくてゆっくり聴く時間がないのが実情です。一素人の勝手な印象を書きます。

 まず私が座った席、6列目、正面に第一バイオリン群の前から4番目の奏者が位置するあたり。ゲルギエフや楽団員をかなり間近に見られる席でした。欲を言えばもう何列か後ろが良かったかな。ステージ上の最前列の楽団員の脇腹辺りの高さにちょうど目の高さが来て、木管や金管がほとんど見えませんでした。ゲルギエフは何年も前に見たときより太った?

 楽器群の配列も面白かったです。両翼にバイオリンを配置し、コントラバスが第一バイオリン側にありました。でも音の出る場所が違って、掛け合いみたいになって良かったです。



 CDの整った音もいいのですが、久しぶり聴く生の音はCDより柔らかい、という印象を受けました。さすが世界有数のオケ、乱れないアンサンブルと迫力。もしかしたら初日だし地方公演だから手抜きしているかも、と思わないこともありませんが、とても満足しました。そして特に今回感じたのは、無音の瞬間がとても心地いいこと。オケを聴きに行って無音とはなんぞやとおしかりを受けそうですが、曲が途切れる瞬間の間(ま)のうまみ、次に音が「湧き上がる」際の強弱の違いを感覚的に楽しみました。また、全楽器が鳴り響いているのも気持ちが高揚していいのですが、弱音の美しさに耳が心地よさを感じていました。

 ●序曲「1812年」。素人耳で音が混ざって不明瞭だった印象がしたんですが、実演はこんなものなのでしょうか。また、おとなしい感じがしたのは私だけ?しかし、最後のクライマックスは迫力。大砲はさすがに使えないでしょうが、とてもとても高揚しました。ゲルギエフはスコアを頻繁にめくりながら指揮をしていました。また楽団員も音楽が始まれば真剣に演奏していましたが、私から見えたバイオリンの方々は曲の前後でよくおしゃべりしているし、ちょっと緊張感が欠けている・・・と感じなくもなかったですが。

 ●「展覧会の絵」。良かったです。今回の曲目の中で自分としてはもしかしたら一番良かったかも。強弱のメリハリやCDでは分からない音の掛け合いが楽しめました。ラヴェルのオーケストレーションの妙味が詰まっているといいますが、少しだけ分かったような気分。「展覧会の絵」は自分自身が好きな曲です。ピアノ版ではアファナシエフの止まりそうな怪演が好きですし、オケ版ではなんといっても今は亡きチェリビダッケの「展覧会の絵」(EMI)では背筋がぞくぞくする感覚を初めて味わいました。CD嫌いの彼のCDをたくさん持っているのは皮肉なもんです。ゲルギエフはスコアを見ていないように思いました。譜面台にはスコアはあったのですが、たぶん序曲「1812年」のもの。

 ●「悲愴」、これも名曲です。この曲には思い出があります。大学の教養科目「音楽史」で、ソナタ形式について問うテスト問題に、この曲の何楽章かを例として引き合いに出して解答しました。講義ではこの曲については全く触れられていなかったので、音楽史の授業を熱心に受講しさらに自分でその科目を深めて学んだ学生を演じたわけで、もちろん「優」をもらいました。残念ながらその時の内容はすっかり忘れてしまいました。ソナタ形式ってなんだっけ?
 さて今回の演奏は第1楽章の後に少し長い間(ま)があったのみで、第2楽章から第4楽章までごく一瞬の間を挟んで一気に演奏されました。普通こんなふうに演奏するんでしょうか。第3楽章が激しく終わるため、知らない人がそこで拍手しないか心配する必要もなくていいのかなとも思います。第1から第3までは自分の感覚ではそんなに熱がこもった感じもせず、少し急ぎ足で進んでいった印象、しかし、第4楽章は渾身だったかも。最終部分でドラが鳴ってからすべての楽器の音が次第に消えていく様には心動かされました。無音に近くなってもしばらくそのままの状態が続き、早めの拍手やブラボーが始まらなかったのも良かったです。でももっと長く静寂があっても良かったかなとも。
 ゲルギエフの譜面台の上には何もなし。暗譜してるんですね。スゴイ。一番激しく動きました。指揮棒が空気を切り裂くと、音が「湧き出して」くるのが間近で見れて良かったです。



 すべての曲目が終わって、お決まりの花束贈呈がありますが、今回はゲルギエフに一人の女性が渡し、もう一人がコンマスに渡しました。コンマスは“えっ?僕に?指揮者にでしょ?”って表情と仕草で示しているのに、結局渡してしまいました。その後彼は楽団全体に向けて花束を掲げ(あっ!楽団に渡すために準備したんだ、と悟る自分)、最後はコンマスの次の次の後ろの席にいたロシア人おばちゃん然とした女性に花束が渡って、彼女が抱えて退場しました。花束の意味は悟ったものの、何か変な花束贈呈に感じた自分が変?

 今回15時15分開場、16時開演の予定でしたが、15時半にホールに行ったのに、ホールの外で待たされました。なんでもリハが延びているとか。そのため開演も10分ほど遅れたでしょうか。18時に終了予定だったのですが、実際には18時20分終了。終演予定時間がとうに過ぎている関係かはたまた移動のためかアンコールが何もなかった。残念。ゲルギエフは明日は大阪だそうです。移動が大変ですね。熊本に来てくれてありがとう。

 楽団員の方で印象に残った人。自分が視覚的に見て印象的だった人は、1812年と展覧会の絵でシンバルを鳴らしていた頭の禿げたおじさん。背が高くはないのに大きなシンバルを鳴らす顔がきりっとしてとても真剣でした。ティンパニのお兄さんも気合の入った華麗なばちさばきで感心しました。それにしてもあのたくさんの数のばち、一体何本あったんでしょう、頻繁に変える必要があるんですね。悲愴の第4楽章の強打、感動しました。そして金管群の中に、トロンボーンとチューバ(ユーフォニウム?)を吹いていた黒人の男性がいらっしゃり、とても新鮮に思えました。彼は曲が終わってゲルギエフに立ち上がるよう促されていました。

 それにしてもやはり生はいいですね。こんなのがもっと身近に来ればいいのですが滅多にないので、こういうときは大都市が羨ましいです。そんな中でゲルギエフだけは熊本に来てくれる・・・・しかも、熊本ゆかりの方の援助のおかげで、このレベルのオケとしては破格の値段で聴けるというのは感謝です。もっと緊張感があったらいいけど。ゲルギエフに限らず個人的にはブルックナーの交響曲(できれば8番)を生で聴きたいのですが、大都市に行かない限り無理な話なんでしょうね。

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